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発表会は試験ではない

その瞬間の音楽を楽しもう

今週は発表会直前のレッスンとあって、皆とてもよく練習してきています。同じ1週間のはずなのに、伸び率が全然違う!いつもながら、「きみたち普段からこれぐらい練習してれば、もっと伸びるのにねぇ」と思ってしまいます。。

練習時間と伸び率の話は別の機会にさせていただくとして、本番での緊張について書きたいと思います。

なぜ緊張するのか?こわいのか?それは、間違えずにちゃんと弾きたい。上手に弾きたい。と思うからです。当たり前のことですね、本番を成功させたいと思うのは。これはプロでも、世界的なピアニストでも同じです。フランスのピアニスト、アルド・チッコリーニの素敵な本にも「あがり」について書かれたところがありました。これに対する対策も多くの方がたくさん書いておられますが、本質的にはこれしかないです。

「入念に準備する」

そんなことはだれでもわかっている、と言われそうですが、わかっている(知っている)のとできているのは別のことですね。自戒をこめて。

レッスンの通し練習でのこと、小さなミスの後で急に音楽がしぼんで小さくなってしまった生徒さんがいました。音楽が小さくというのは、聴いている人にうったえかける力が小さくということですね。これはとてももったいないこと。彼女らしい輝き、ファンタジーがどんどん小さくなってしまった。ミスをした瞬間、「しまった」という思いとともに緊張して心にブレーキがかかってしまったのです。本番中は、ミスや思い通りにいかないところがあっても後戻りはできません。音楽は流れているので、あっと思った時にはもう次が来ています。コンクールや試験は減点主義ですからミスは不利になりますが、発表会は音楽を楽しむ場です。何かミスがあったとしても、次の瞬間に素敵な音楽を聴かせてくれればいいのです。とらわれず、自分がもともとやろうとしている音楽に集中していきましょう。完璧を目指すことはとても素晴らしいですが、そのためにせっかくの舞台を楽しめなくなってしまったら、もったいないというか、本末転倒のように思います。

もちろん、リカバリーできるように想定して練習しておくことは大事です。緊張はだれでもするもの。普段と違う状態で、何がおこっても立て直せるように。そのための練習法、考え方についても、また書きたいと思います。本番の経験を重ねていくことで、経験値として身についてくるものもあります。

本番は一度きり。同じ曲を弾く本番が複数回あったとしても、一つ一つの本番はそれぞれ一度きり。一期一会の世界です。本番独特の精神状態だからこそ感じられるひらめきもあります。その瞬間の音楽を、心の底から楽しみましょう。できることをやったら、あとはおまかせで。